自分で転職先を見つける思考法――エージェント任せにしないための目利きの基礎
転職エージェントを使うのは悪いことではありません。ただ、ひとつだけ知っておいてほしいことがあります。企業は採用が決まると、あなたの年収の35%前後を紹介手数料として支払います。
だからエージェントは、ときに「決まりやすい会社」や「手数料が高くなる求人」を勧めることがあります。給与や福利厚生だけを見て流されるのではなく、自分で目利きする力を持って選びにいきましょう。
1. 「自分の物差し」を定める
転職は、何かを捨てて何かを取りに行く選択です。迷う人の多くは、自分の判断軸である物差しがぼんやりしています。完璧である必要はないので、まずは譲れない三つを決めましょう。
たとえば——
- これだけは欲しい:例)裁量のある仕事/現場に触れられる環境
- これだけは避けたい:例)属人的なマネジメント/休日出勤の常態化
- ここを伸ばしたい:例)提案力/事業づくりの基礎
譲れないものを決めることが最初の一歩です。
2. 年収は「どの業界を選ぶか」でほぼ決まる
実は年収は個人能力だけでは決まりません。業界の生産性と成長性に強く影響を受けます。だからこそ、伸びる市場に身をおくことが重要となります。
- 低収益の業界:同じスキルでも年収レンジは上がりにくい
- 伸びる業界:初期レンジが高く、昇給スピードも速い
これから伸びるマーケットの見つけ方
- テーマに追い風があるか(例:AI/脱炭素/物流・医療・インフラの更新)
- 多くのベンチャーが参入しているか(大手よりも先にベンチャーが参入している)
- 単価を上げられているか(値上げできる、解約が低い、LTVが伸びる)
- 採用が熱いか(通年採用・内定承諾の早さ・職種拡張)
まず“土台の強い場所”に立つ。ポジショニングで生涯年収は変わります。
3. 「活躍できる会社」か
同じ業界でも、会社ごとに「活躍のしやすさ」は違います。見てほしいのは中途育成と花形部署です。
- 管理職に中途出身がいるか(新卒入社だらけではないか?)
- 評価基準が明文化されているか
- 面接でこう聞く:「中途1年目・2年目の育成って、具体的にどうされていますか?」
また、自分の希望職種と会社の花形部署はリンクさせておいた方が望ましいです。
花形部署に権力や裁量があり、成長機会の獲得も比例します。
知り方は会社の商品やサービスをよく見ると見えてきます。
- 新機能がどんどん出る → 開発主導
- 広告・販促が強い → マーケ主導
- 幅広い顧客層が使っている・品ぞろえが豊富→営業主導
- 品質・調達・安全の話が多い → オペ/管理主導
4. 自分の強みを伸ばせる場所か
市場価値とは、どこでも通用する再現性のある力と考えてください。
これを最短で高める方法は、自分の強みを日々磨ける現場を選ぶこと。得意なことは学習効率が高く、結果が早く出るぶん評価を得られ、能力が高いと機会が回り始めます。積み上がった成果は数字とプロセスで語れる「型」になり、他社でも再現できる実績として残ります。続けやすいから伸び続け、伸び続けるから希少性が生まれる。この良い循環は、強みの道を選んだ人にだけ起こります。
見るポイント
- 役割と責任が明確か(何を任され、どのように評価されるか)
- 汎用スキルが伸びるか(提案設計、要件定義〜検証、データ意思決定など)
- 成果を持ち出せる形で残せるか(KPIと手順で説明可能か)
5. 報酬の現実と伸び代の見方
年収は高いほど嬉しいですよね。ただし注意が必要です。見るべきは初期年収と伸び代のバランスです。成熟度が高い会社は初期年収が高めに出やすい反面、役割の変化が遅く、上がり幅が小さくなりがち。一方、成長フェーズの会社は初期が控えめでも、役割拡張と成果に応じて年収が伸びやすい。どちらが正解かではなく、自分が今、何を育てたいかで選ぶのが近道です。強みが最短で尖る場所なら、数年単位で見ると総合的に報われます。
6.口コミも参考にする
公式の発信や面接だけでは、現場の空気や運用の実態までは見えません。評価制度は整っていても、部署によって運用が違ったり、上司の関わり方で働き心地が変わったりします。口コミは、その“見えない差”を拾うための手がかりになります。
見るポイント
- 部署ごとの差:職種・部門ごとに満足度が割れていないか(配属のブレ幅を推測)。
- 運用の実態:残業や休暇の取り方、評価サイクル、育成の手触りが具体的に語られているか。
- 変化の方向:半年前と今でトーンが良くなっているか(改善が続く会社は伸びやすい)。
口コミを参考にする際のコツ
- ネガティブ寄りを前提に、同じ指摘が複数の投稿で繰り返されているかを重視する。
- 競合と相対比較して、その会社の強み・弱み・立ち位置をつかむ。
- 年収は低めに出がちと理解し、レンジ把握に使う(最終確認は面接と決算資料で)。
面接での使い方
- 「口コミで◯◯という指摘を見ました。実際の運用はどうですか?」
- 「直近1年でその点をどう改善しましたか?具体的な数字や事例はありますか?」
口コミは正解ではありませんが、公式情報とのズレを確認する鏡としては有効です。ズレが許容できる範囲か、むしろ自分の強みが活きる余白なのかまで見極めて、判断材料にしてください。
7. 番外編:社内には漏らさない
転職活動は社内で絶対言わない。噂は回ります。
上司や管理職の耳に入った時点で、おいしい案件や成長機会は現メンバーへ回されます。
「仁義として伝える」「相談したい」と言って損をする事例を何度も見ました。
合意が固まるまでは必ず静かに進めましょう。
8. 面接で使える確認質問
ここまでの目利きを、面接で事実に落として確かめるための質問を置いておきます。
- 「この一年で最も伸びた事業は何で、どの指標が改善しましたか」
- 「中途入社のオンボーディングはどんな流れですか。評価基準はどこで見られますか」
- 「直近で昇格した中途メンバーの事例と、評価された成果を教えてください」
- 「私の職種で重視するKPIは何で、どのチームが意思決定の中心になりますか」
- 「プロダクトの更新頻度と、直近の改善事例を教えてください」
曖昧な回答が続く、数字が出てこない、責任範囲がぼやける場合は、活躍の再現性が低いサインです。
9. まとめ
- 物差しを決め、福利厚生ではなく成長視点で求人を見る
- 伸びる市場に立ち、一次情報から“当たり”を拾う
- 中途育成と権限の流れで活躍のしやすさを見抜く
- 強みが最短で尖る場所を選び、市場価値を底上げする
- 年収は初期レンジと伸び代のセットで判断する
- 口コミは比較で読み、社内には絶対に漏らさない
参考文献
『転職の思考法』北野唯我/ダイヤモンド社(2018)
本記事の一部は上記書籍の内容を参考に、筆者の経験と調査を加えて再構成しています。
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